親父
「お父さんが大変なんだよ」
その言葉を聞いた瞬間に夢だと気付いて目を覚ました。
親父の夢をみるなんて久しぶりだ。
親父は私が小学校五年生の時に癌で亡くなった。
小雪がちらつくなかで親父が病院から家に運ばれてきた日は、今でも昨日の事のようにハッキリと覚えている。
家に戻った翌日はまだ意識もしっかりしていて、弱々しいながらも会話ができた。
せっかく話すことができるのに、何を話したらいいのか分からなかった。
電気釜や電気ごたつが新しくなったというどうでもいい話をした。今思えばもっと他に話すことが沢山あったのに。
朝から降っていた雨は夜になると土砂降りになり、親父は昏睡状態になった。
聞こえるのは激しい雨音と微かな親父の呼吸音だけ。
時々その呼吸が止まるようになった。そのたびに耳元でお父さん!と呼びかけた。親父はハッとしたようにまた呼吸をはじめる。
次第にその間隔が短くなる。
夜半すぎには雨音が小さくなり、とうとう親父は呼びかけても二度と呼吸をしなくなった。
雨は雪に変わり、朝になると外は白一色の世界になっていた。
そういえば、おふくろのことは思い出しても親父のことを思い出すことはない。
墓参りも何年もしていない。親不孝なことだ。
俺のことを忘れないでくれよと、年下になってしまった親父に言われた気がした。
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