(14) 狐狩り
登場する人物、団体名は仮名です
同期生、後輩、嫌な先輩の敬称は略してあります

水滸伝BBCバージョン Opening
Ending 夜明けを呼ぶもの/ピートマック・ジュニア(1973)

 日曜日の朝、本間さんのジムニーに乗って男子寮を出ようとしたら、高木さんが玄関先にしゃがみこんで何かを熱心に見ている。

「高木ィお前何やってんだ、こんなとこで」
 手をパンパンと叩きながら照れくさそうな顔をして立ち上がる高木さんは、どうやら蟻の行列にパン屑をやっていたようで、結構無邪気なとこあるんだなと本間さんが笑う。

「お前ら、どこ行くんだ?」
「これからフォックスハンティングに。会場が木曽川の近くなんよ、だからついでに河原でジムニーがどれくらい悪路走れるか試して見ようと思ってな」
「フォックスハンティング? 何じゃそりや」
 フォックスハンティングってのは→これ「高木さんも来ない?」
「面白かったら行くけど、ワシの趣味やないからなー」
「そんな事言わずに来いよ。どうせお前何もやることなくてヒマこいてんだろ?」
「そりゃないぞ」
「何だ忙しいのか?」
「いや、ヒマ」
 結局、高木さんが助手席に座って、オレは後ろの小さなシートに移動。三人で出掛けることになった。本間さんのジムニー、中古だからこんなに綺麗じゃなかったけどね……。

Jm

「タバコ吸いたいんやけど、コレどうやって窓開けるんや」
「ジッパー開けて下から丸める」
 初代ジムニーだから乗り降りも悲惨。
「ドアもないふっべんな車やなー。何でこんなん買った、鈴木なんて名前が悪いぞ。四輪駆動いうても軽やから力ないやろうし」この後も呆れるほど際限なく悪口が飛び出す。
 ちなみに、高木さんの言う鈴木とは”裏なり瓢箪”とあだ名がついた「ぼく、体弱いから」が口癖で、そのセリフがピッタリ似合っている先輩寮生のこと。

 後席にはアマチュア無線機と小型のアンテナが置いてある。
 本間さんのモービル機は井上電機のFDAM-3で、他に144Mhzの固定機があって、そっちはメーカー名が分からない。トリオとか八重洲無線とか名前はよく聞いたけど、こんな感じだったので、多分同じ井上電機製だと思う。
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「そのアンテナどこの部屋から盗んできた。今頃テレビが映らんて騒いどるぞ」と軽口を叩く高木さんに
「お前の部屋からな。安物だから付けても大して変わらんと思うけど、ま、無いよりはマシかな」本間さんが苦笑いで答える。
「河原についたらフルオープンにしようぜ」「幌たたむの面倒なんよ、お前手伝えよ」などと話しながら県道151号線を北へ走っていると、
「ん? なんか臭くねえか」と本間さんが言い出した。
「うん、何か焦げてるような」これは髪の毛が焦げている時の匂いだ。
「え? ワシ何も臭わんけど、お前ら鼻おかしいんじゃないか?」
「そうかぁ……いや、やっぱり何か焦げとる匂いがするぞ」
「中古やからエンジンが焦げとるんちゃうか? 鈴木やからエンジンも体も弱いんやろ」
 とそこまで言った高木さんが、突然「うわぁあちちぢぢぢぢ!!」と叫び声を上げる。
「何だ何だ、どうした」
 見ると、高木さんの股間に火のついたタバコの吸い殻が載っていて、そこから煙が立ち昇っている。高木さん、慌ててそれを床に叩(はた)き落とす。

「誰や! こんなとこでタバコ捨てたんは!」
「おいおい、今道路走ってんだぞ誰が捨てるってんだよ」
「タバコ吸ってたのは高木さんだよ」
「アホか、ワシのタバコはとっくに窓から捨てたぞ」
 そう言えば、手に持ったタバコをカッコつけてピシッと指で弾いて捨てたのを見た。
「ひょっとして、気づかない内に風で吹き戻されたんじゃない? 窓全開だし」
「そんなことが有るもんか」「高木、お前タバコ何吸ってんだ」「セブンスター」「そのタバコは?」
 高木さん、灰皿に捨てたタバコを見る「セブンスター……」
 ひょっとしたら、オレのかも知れないと声のトーンがやや落ちる。
「ひょっとしなくてもお前しかいないだろう。相変わらずというか、お前のその運の悪さは、天然記念物並だよな。珍しいよ」と本間さん。
「あーあ、ズボンに穴あいてもうた」「●●●火傷しなかったんだからズボンくらいどーってことねえだろう」「どうせ使うことないから火傷しても平気だろうけど」「うるへー」
 本間さん、手を伸ばしてグローブボックスからマジックを取り出す。
「穴開いとるの目立つから、これでパンツの見えとるトコ黒く塗っとけよ」
 高木さんは素直にそれを受け取り、情けない顔でパンツに色を塗る。
「しっかし、お前らと居るといっつもロクなことないな……」
 元はと言えば自分のせいでしょう、今のタバコも。
 そうこうしている内に集合場所の公園に着いた。
 もうすでに大勢の人が集まっていて、胸に付けているネームプレートは苗字ではなくコールサインになっているのがいかにもアマチュア無線家の集まりらしい。本間さんのも「JA2S●●」になっている。「本間」ですと言っても誰も分からないけど「S●●」ですと言ったら直ぐに分かってくれる。

 世話役さんらしい人の挨拶の後、「体型はタヌキですが今日はキツネをやらせていただきます」と笑いを取ったキツネ役の人が先に出発した。乗っている車は黄色いコロナマークⅡのGSS。しかも黒のレザートップ。これなら目立って見つけやすいかも。伸ばしたアンテナに赤いリボンが付いている。

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「キツネがえー車に乗っとるのう」
 高木さんが羨ましそうに見送ったその車が、この後大騒ぎを引き起こす。

 後半に続く。

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