(8) スバル360
登場する人物、団体名は仮名です
同期生、後輩、嫌な先輩の敬称は略してあります

ルパン三世/エンディング・テーマ(1971)

 早く車を出したい島村さんは何度も車を動かしてみるが、塀を背にして駐車してあるので、駐車場から出ることが出来ない。
 そのうちに他の季節工のおっちゃん達も何事かと部屋から出てきた。
「あー、前には進まないからこれ以上車を動かしても無駄だね」
 本徳さんが、ダミ声で言う。
「なし、ギヤん抜けんっちゃろか。車ば止むるまでなんもなかったとに」
 そう言われて車の下を覗きこんだら、ミッションから来たロッドが地面に垂れている。

S360pin


「島村サーン、チェンジレバーを繋いでいるピンが抜けたんじゃない? 最後にバックに入れたのはどこ?」
 教えてもらった辺りを探すと、「これと違うかい?」おっちゃんの一人が抜けたピンを見つけた。
 これでチェンジレバーとロッドを繋げば元に戻りそうだ。
「ジャッキは? どこ?」
「こん車にゃジャッキやらそぎゃんかもんな、なーんもなか」
 聞けば、工具の類いはおろかスペアタイヤさえないという。うわ、よく平気で乗ってるなと感心する。
 この当時、軽自動車に車検はありませんでした。250ccのバイクと同じ扱いです。
 困ったな、どうしようか誰かのジャッキを借りてこようかと言ったら、
「いや、軽いからみんなで持ち上げてひっくり返せばいいさ」
 事も無げに本徳さんが言い出して、率先して車の下に手を掛けると、みんなにも声を掛ける。
「おいおい、そげんこつして大丈夫か? ちょっと待たんか」
 しかし、誰も島村さん言うことを聞いていない。みんなで、セーノで持ち上げるよと言った後、掛け声を掛けて車を持ち上げ一旦横倒しにした。
「あーあ、お前達や、人ん車やけんて無茶してから、止めろて言うたっちゃ聞かんもんね。もうよか、好きにせんね」
 抗議が無駄だと悟った島村さんは、縁側で頬杖を突きながら大人しく成り行きを見守る。
 もう一度持ち上げてひっくり返すと、亀がひっくり返った状態で車の腹が見えた。
 外れているチェンジレバーとミッションへのロッドを、抜けたピンで再び繋ぐ。
「よっしゃ、もっかいセーノで持ちあげるよ」と本徳さん。掛け声を掛けて車を持ち上げ、今度は転がすようにして一気に元に戻したら、
「アーッ!!」
 島村さんが叫んで立ち上がった。

 靴ベラの親方のようなFRP製のルーフだけが地面にポツンと残っている。

「ほれみろ、屋根ん外れたやなかね。どぎゃんすっとか。あーもう、お前たちんお陰でわやたい」
 ありゃー取れたかい、とか言いながらみんなでルーフを嵌めようとするが「H」型のゴムパッキンで嵌っていたので人力では元に戻せない。
「こりゃ、ダメだね。ま、オープンカーだと思って乗ればいいよ」あっさりと諦める本徳さんに、
「雨ん降ったらどぎゃんすっとか、乗られんじゃなかか」と島村さんが抗議する。
 え? 問題はそれですか。屋根を壊したことはもうすでに過去の出来事って、諦めが早くないですか。
「傘を差して乗る訳いかないから、雨合羽を着て乗れば大丈夫ですかね」
 何が大丈夫かわからないけど、本徳さんも真面目な顔で答える。合羽は蒸れていかんって、島村さんそんな問題じゃないと思うけど。

 ギアチェンジが出来るようになったので、兎に角早く出かけたい島村さんは、外れたルーフをサーフボードのように後ろの座席に突っ込んで、屋根が外れたままで走りだした。長い髪が風に揺れる。それを見て突然頭に浮かんだのは、

 あ! これって、
 キャンバストップのフィアット500に乗ってる石川五ェ門じゃん!

 後日談
 島村さんのスバル360は床も穴だらけで、走りながら路面が見える上に、雨の日に走ったら下から水が飛び込んできていたが、今度は直接上から雨が降り込んでくるようになり、この後暫くは我慢して乗っていたけど、結局は廃車になりました。
 スバル360無理矢理コンバーチブルと島村さん、似合ってたのになー。      

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