(9) 花の女子寮
登場する人物、団体名は仮名です
同期生、後輩、嫌な先輩の敬称は略してあります

One of These Days (吹けよ風、呼べよ嵐) / PINK FLOYD(1971)

「ええか、工藤のクサレ●●●のいいなりには絶対なるなよ」
 そんな園井の厳命で高木さんと二人して女子行事委員会の定例会に急遽出席する、園井に言わせると殴りこみをかける事になった。その理由が盆踊りの復活と言うのでは女子寮へ向かう二人の足取りも重い。

 裏門の守衛室で入寮手続きを済ませ、女子寮へ向かう地下通路の手前で高木さんが突然立ち止まる。
「新しく女子の委員長になった工藤な、口元のホクロが色っぽくてイイ女なんや。んで、笑うと目尻が下がって泣きそうな顔に見えて、コレが又可愛いんや」
「は? ナンデスカいきなり」
「でも、それにダマされたらアカン。顔は可愛いけど性格はチョットも可愛くない。滅茶苦茶キツイぞ。オマケに頭が良くて口が悪い。口では絶対勝てん。殴り込みたら威勢はエエけど、ま、返り討ちに遭うのがいいとこだろうなあ。園井が女子寮に行かねえのは、工藤と顔合わせたくないからや」
「どうして工藤さんの事そんなによく知ってるんですか?」
「同じ職場のいっこ先輩や。職場でも頭が上がらん」
 なるほど、そういう事か。地下道の坂道で更に足取りが重くなる。

 さて、玄関までは来たけれど、定例会が行われる委員会室がどこにあるのか分からない。
 なので、事務所で場所を聞く事にした。出てきた事務員は、オレと同じ年頃の若い女の子。女子寮の事務員って皆オバサンだと思ってたけど、こんな若い子もいるんだ。しかも、カワイイ。胸の名札には多喜川と書いてあった。
「あ、男子寮の役員の方ですね、お見えになる事は委員長から聞いてます。場所はすぐにわかりますよ。事務所の先を曲がると中央廊下に出ますから、少し行くと右側に大きなお風呂場があって、委員会室はその手前です」
 えっ? 風呂場の隣って、今は時間的にちょっとマズイんじゃないかな。
「ええじゃんかよ、運が良かったら女の裸見られるかもよ」
 早く行こうぜ、とさっきまでとは打って変わって足取りが軽い。ちょ、ちょっと待ってよ高木さん、先に来訪者名簿書いて下さい。

 事務所を出て中央廊下に近づくにつれザワザワと人の気配がしてくる。
「お、居る居る」とにニヤつく高木さんに、
「えー、やだなー何かいっぱい居そうですよォ」と言いながら角を曲がると、イキナリ廊下を埋めつくしている女の子の群れが眼に飛び込んできた。手に手に洗面器を持って、中にはパジャマやネグリジェ、さらにはスリップ姿の子も見える。いったい何人いるのだろう? 100人? いやもっとか、200人?。想像を遥かに超えた数の女の子達が、一斉にこっちを見る。
 一瞬の間があった後に「キャーッ」「いやだー」「何でここに男がいるのよ!」と怒号と悲鳴が上がり、たちまち大騒ぎになった。
「あんたたちここへ何しに来たの!」
 もの凄い数の女の子から、もの凄い剣幕で睨まれる。委員会室に来たと言っても誰も聞いていない。顔を合わせただけで、ノゾキか変態扱いだ。もしこの女の子たちが全員裸だったとしても、この数では絶対オレ達が負ける。
「こりゃ、マズイぞ」と、高木さんに引っ張られ慌てて委員会室へ逃げ込む。
 しかし、ここでもまた悲鳴が上がる。
 委員会室の中は石けんとシャンプーの香りが充満し、二十名ほどいる女子役員の半数はパジャマ姿だった。しかも、全員が薄着。
 女の子達が慌てて胸のボタンを止めたり、捲り上げていたTシャツを下げたりして、ホッとする間もなく大騒ぎになった。
「エーッ! どうして男子が来るのォ!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
 奥の席から工藤委員長がしれっと言い放つ。
「そんなの聞いてないよ!」「男子が来るんだったらこんな格好してこないのにイ!」
 またしても変態男かノゾキ扱いで睨まれる。どうしてそんな目で見られなければいけないのかと、釈然としない。しかし、胸やむき出しの太腿を隠す仕草に、つい眼がそこへ行ってしまう。すると更にきつく睨まれる。
「ゴメンゴメン。でもまあ、ブラパンじゃないからいいじゃん。見られて減るもんじゃないし」
「良くない! 見られたら減る!」
「じゃあどうする、今日は帰ってもらう? せっかく来てもらったけど」
 くそっ!  工藤さんはわざと言わなかったに違いない。
 ブツブツは言われたが「わざわざ男子寮から来てくれたんだし……」と幸いにも帰ってくれとは言われなかった。
「よかったネ、うちの子達みんな優しくて。今日は見物料取らないから、今度来るときは手ぶらで来ちゃダメよ」
 首を傾げながらニコッと笑って言う。

Kudo

「どうせ園井に、工藤の馬鹿女の言うことなんか聞くなって言われてきたんでしょ? あ、工藤のすべたかな?」
「うん、まあ、そんなとこだな」
 高木さんが曖昧に返事をする。まさか「腐れ●●●」と言われたなんて、女の子の前では絶対に言えないよな。と、思ったら、
「言いたいことが有ったら、あたしに直接言えばいいのにさ、アイツ金玉小さいから言えないんだよ」
 エッ? と一瞬耳を疑った。工藤さんの口から金玉なんて言葉が出てくるなんて。
「ヤダー、見たんですかぁー」
 女の子たちが黄色い悲鳴を上げる。お前達も訊くなよそんな事!
「まさか。アイツの皺だらけのなんか見たくもないよ、気持ち悪イ」
 キャーッとまたしても黄色い悲鳴。女の子たちがクスクス笑いながらオレ達を見る。こっちの股間をチラチラ見られている気がして落ち着かない。何だこれは、オレ達への意趣返しか。
「どうしたの?」
 工藤さんが意地悪く笑う。
「居心地悪そうだから、そっちの案件先にヤッツケちゃおうか」
 居心地悪くしているのは工藤さん、あなたでしょう。

 う、う、うっ、手強いぞ女子寮!

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